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2005.11.20

世界に一つだけの国

町田市内にある通所授産施設「赤い屋根」の施設長・小野浩さんが施設の会報に掲載した記事です。
掲載許可を頂き、転載させて頂きました。m(__)m


世界に一つだけの国

採決直前だというのに
 2005年10月28日、衆議院・厚生労働委員会は、障害者自立支援法案(自立支援法案)の採決を予定している最終の委員会だというのに、この日も、間違った「基礎データの誤り」を正す質疑で紛糾しました。
 紛糾の原因は、減免制度による負担軽減の見込み人数をめぐってでした。
 厚労省は、自立支援法案による定率(応益)負担の導入に伴って、さまざまな「負担軽減策」を提案しました。
 所得に応じた負担上限額や個別減免、そして社会福祉法人減免などです。つまり、低所得の人たちに対して、その所得の水準に応じて、「加重な負担」が課せられないようにする、というものです。
 厚労省はこれらの減免制度を「限りなく応能負担に近い定率負担」、「きめ細かな配慮」と、説明してきました。そして、これらの「軽減策」を厚労省は、自ら「安心装置」と呼んでいます。
 ではこの「安心装置」、どれほどの効果が期待できるのでしょうか。

負担は軽減されるのか?
 減免制度の対象は、生活保護以上で年収300万円以下の「低所得」世帯です。それ以上の収入の世帯は、月額上限40200円までの定率(応益)負担が課せられてしまいます。法案採決の前に、この減免制度でどれくらいの人の負担を軽減できるのかを明らかにすることは、立法府の当然の責務です。
 厚労省は、前夜11時に、所得階層別の人数と、減免制度による負担の影響額を示した資料を、質問予定の議員に提出したそうです。
 質問にたった議員は、こう尋ねました。
「年収300万円以上の世帯が5%ということはありえないでしょう。このデータは、本人所得の人数ですか?、それとも世帯所得の人数ですか?」と。
「障害者の属する世帯の所得である」と、中村社会援護局長は、答弁しました。
 誰もが耳を疑いました。「えっ?」という空気は、議員席にも流れました。
 家族収入を含めて年収300万円、つまり月額25万円を超える障害者世帯が「5%しかない」という説明は、誰もが疑問に思うはずです。
「他の議員のみなさんも、ホントにそう思われますか?」と呼びかける議員は、今度は尾辻厚労大臣に尋ねました。
「これはホントに世帯所得ですか?」
「事務方が算出したのだから、間違いない」と、尾辻厚労大臣は答えました。

翻った局長答弁
 いよいよ採決まで、残すところあと1時間となった審議の最終盤。最後の議員がもう一度尋ねました。「このデータは、本人所得ですか、世帯所得ですか?」
 ところが、中村局長は前言を翻しました。「本人の所得をもとに積算した」と。さらに「本人の所得を、そのまま世帯の所得として推計した」とも。
 この答弁で議場は騒然としました。
「そんな計算はおかしい。ただでさえ少ない本人の所得を、世帯の所得とするのはおかしい!」と迫る議員は、別の資料を提示しました。
「これは、10月4日に開かれた『とうきょうフォーラム』で、東京都が発表した公式の資料です。本人所得のみでは70%の人が『低所得』になるのに対して、家族の収入を含む世帯所得では、65%が『一般』になるのです。自治体はこうしたデータをもっています。厚労省が求めれば、こうした基礎資料は、すぐ手に入るはずです。なぜ根拠のあいまいな積算をするのですか」と、最後の議員は、誤りを問いただしました。
 厚労大臣や局長は「予算の見積もりのための積算」という答弁を繰り返すばかり・・・。

後味の悪い採決
 結局、「データの誤り」は正されず、減免制度でどれくらい負担が軽減されるのかも不明のまま、審議は集結しました。
 他にもあいまいなことは、たくさんあります。試行調査で多くの知的や精神障害の人が「サービス対象者」から除外されてしまった障害認定基準はどうなるのか。24時間ホームヘルプサービスを必要とする重度障害の人はどうなるのかなど、不透明・不十分さは、たくさん残されたままです。
 しかし、10月28日、午後4時35分、衆議院・厚労委員会で可決され、31日には本会議で可決されました。本会議の採決では、与党の何人かが賛成しなかったそうです。また通常は、採決後拍手がおこるのですが、今回は拍手もなく閉会したそうです。きっと、後味の悪い採決だったのでしょう。
 11月2日のニュースジャパンで、尾辻前厚労大臣は、定率負担の導入に「財務省の意向があった」と、はじめて認めました。可決後だから言えるコメントなのでしょう。

当面する3つの課題
 いずれにせよ、障害者自立支援法は成立しました。残された基本的な課題では、障害基礎年金制度の抜本的拡充や、障害の範囲の拡大、福祉と雇用の本格的な統合などですが、当面する課題は、以下の3つです。

●「政省令」づくりに対する運動
 自立支援法は、「1割の定率負担」以外に、具体的なことを盛り込んでいません。たとえば、施設運営の基本となる最低基準や職員配置基準、またホームヘルプサービスの利用基準や公費水準も、すべてこれから、通知や通達という「政省令」で決められます。減免制度も詳細は、未確定です。
 異例にも、衆議院・厚労委員会は、法律の制定の責任にもとづいて、この厚労省の「政省令」づくりを継続的にチェックする申し合わせを確認しました。こうしたチェックと連動しながら、障害者団体の要望を反映させることが重要です。

●担保となる「障害福祉計画」の策定
 今後は、ますます市町村の責任と役割が大きくなります。施策やサービスを地域で整備するうえで担保となるのが「障害福祉計画」です。これを当事者・関係者の参加でつくる必要があります。また自治体の「横だし・上乗せ」をどう実現するかです。

●自立支援法への「対応策」の確立
 最後に法人や事業所において、自立支援法への「対応策」を確立することです。具体的には、減免を含む定率(応益)負担への対応策、新事業体系を見据えた事業の見直しなどです。ただし、これらは「障害福祉計画」とリンクすることが重要になります。

 じつはこの原稿、印刷直前に後半部分を全面的に書き直しました。「元気のでる結末」を書けずに悩んでいたところ、ある利用者のお母さんが尋ねてきました。
 法案が可決成立したことを伝え、この原稿を見せると、「こんなことで弱気になったらダメよ。次はどうするかを示さなきゃ。それが小野さんの役割でしょ!」と、そのお母さんに、檄を飛ばされてしまいました。
 自立支援法案が可決されたときニッポンは、「世界に一つだけの国」になりました。なぜならば、障害のある人たちに応益負担を課す国は、世界のどこにもないからです。ニッポンを逆の意味での「世界に一つだけの国」にするためにも、挫けてなんていられません。そうですよね。お母さん!
(おの ひろし)

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