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新教育の森:障害児放課後活動、自立支援法で岐路
新教育の森:障害児放課後活動、自立支援法で岐路 放課後といえば、友達と遊んだり習い事に行ったりする子どもの姿がイメージされる。だが、障害のある子には、こうした当たり前の時間さえ確保が難しい。障害児の放課後を支える取り組みの現状は。【夫彰子】
◇進む法内事業移行…どうなる就学児の居場所 ◇質の低下、利用料増懸念--都内50カ所
◆サポートあり安心感
「こんにちはー」。午後2時が近づくと、母親に連れられた子どもたちが次々と到着し、室内はたちまちにぎやかになる。
東京都江東区の住宅街にあるビルの一室で運営する「さくらんぼ子ども教室」。小学1~6年の子どもが、放課後から夕方までのひとときを過ごす。学童保育のイメージに近いが、大きく違うのは、入会している28人全員に知的障害や肢体不自由、自閉症などの障害があることだ。
小学6年の男児(12)は、5年生の春から通っている。注意欠陥・多動性障害(ADHD)で、小学1年から3年間は学童保育に通ったが、遊びのルールが十分理解できず、次第に周囲から孤立していったという。
母親(42)は「学童保育で周りの子どもが優しくしてくれたことは、本当にうれしかった。ただ、一人で寂しそうに遊んでいる時が多く、親としてつらかった」と振り返る。
さくらんぼでは、職員たちのサポートで他の子らと遊ぶすべを覚えた。集団生活に慣れていく様子に、母親は「息子に合う場所が見つかった」と実感している。
今春から通う小学1年男児(6)の母親(34)は「学童保育で障害のない子どもたちと過ごすことで成長する障害児もいると思う。でも、そうじゃない子もいると分かってほしい」と訴える。
男児は、環境の変化への対応や人間関係を築くことが困難な自閉症。混乱するとパニックを起こし、自分自身や他人を傷つけてしまう。息子がたたいてしまった人に平謝りした経験は一度や二度ではない。相手が納得しない時は、「本人は何か理由があってパニックになっている」と知りつつ、場を収めるために「ごめんね」と心でわびながら息子をしかりつける。母親は「障害への理解が不十分な環境は、子どもも親もつらい」と語る。
◆助成金ある都の場合
さくらんぼの前身の「まつぼっくり子ども教室」が設立されたのは83年だった。8年後に「まつぼっくり」は中高生対象となったため、小学生は新たにできた「さくらんぼ」に通うことになった。
開設の背景には、79年に障害児への教育が義務教育の中で明確に位置づけられたことがある。戦後30年、ようやく障害児が教育を受ける権利を保障されたが、多くの子は下校後、近所の子どもと遊ぶこともなく、自宅以外に居場所がない状態だった。
さくらんぼの山崎知子所長は「障害児に放課後の居場所を提供するだけでなく、障害について知識のある職員が一人一人の成長に合った療育支援をする場」と位置付ける。70~80年代に東京都が独自に活動費の助成を始めたことも追い風になり、さくらんぼのような拠点は現在、都内約50カ所に上る。
ところが、全国に先駆けて進められてきた都内の障害児放課後活動が今、従来通り続けられるかどうかの岐路に立っている。
06年10月に障害者自立支援法が全面施行されたのを境に、都は従来の独自事業から、障害児を昼間預かる児童デイサービスや日中一時支援など同法に基づく事業(法内事業)への移行を図るようになった。独自事業と異なり、法内事業の場合は活動費の2分の1を国が負担するため、都にとっては財政負担が小さくなるメリットがある。
◆独自施策は129自治体
実際、「障害のある子どもの放課後保障全国連絡会」が昨年10月、全国の1827市区町村を対象に実施した調査(回答率71%)では、障害児の放課後活動に独自施策があるのは129自治体にとどまり、児童デイサービス(802自治体)や日中一時支援(1039自治体)が受け皿になっている実情が浮かんだ。
だが、児童デイサービスは就学前児童が中心で、日中一時支援は文字通り、一時的な預け先だ。山崎さんは「現在の法内事業では、さくらんぼのように学齢期の障害児への継続的な療育を目的とした事業がない。移行すれば支援の質が低下してしまうのでは」と困惑する。
さらに、法内事業になると同法に基づき、保護者に原則1割の利用料負担が課せられる。さくらんぼの場合、現在は月3000円程度の会費で済んでいるが、「移行後は保護者の負担が2倍、3倍に増える」(山崎さん)。都は保護者らの要望を受け、既存の拠点に限って独自助成を続けているが、「当面の間」との条件付きだ。
◇一般学童保育に1万4000人 きめ細かな対応は難しく 障害児の放課後の居場所には、一般の学童保育もある。「障害のある子もない子も一緒に」という理念からだけではなく、ほとんどの自治体で障害児のための独自施策がない現実があるからだ。厚生労働省によると、全国の学童保育の4割に当たる6538カ所の学童保育に、計約1万4000人の障害児が在籍している。
しかし、全国学童保育連絡協議会の真田祐事務局次長は「今の学童保育は、障害のない子にとっても安心して過ごせる環境とは言い難い。障害児一人一人に合ったきめ細かな対応ができるか疑問」と指摘する。
児童デイサービスや日中一時支援が自立支援法に基づく事業なのに対し、学童保育は児童福祉法に基づく。他の児童施設と異なり、職員配置や施設面積の規定がない。離婚などに伴う一人親や共働き世帯の増加により、学童保育は過去10年間で、児童数が2・4倍の約79万人に増えた。しかし、施設数は1・8倍の1万7495カ所と伸びが小さく、真田さんは「最低基準がないままニーズに受け皿作りが追いつかない状態が続き、古く狭い室内に子どもが詰め込まれ、芋洗い状態の学童保育も珍しくない」と嘆く。
同協議会は、子どもの生活環境や安全を確保するために「学童保育1カ所当たりの規模を、最大でも児童数40人にすべきだ」と提言しているが、「1カ所に多数の子どもを集める方がコストが少なくて済むため、規模の適正化が進みにくい」(真田さん)。厚労省も、71人以上の学童保育には10年度から補助金を廃止する方針だが、2481カ所(全体の14%)では今も70人の上限を超えている。
また、学童保育1カ所平均の児童数は45人なのに対し職員数は3・7人と、職員1人で10人以上の子どもを見る計算だ。障害児がいれば、補助金の加算があり職員を追加できるとはいえ、金額は障害の程度や人数に関係なく一律年間142万円で、1人増員するのがやっとだ。
障害児の場合は中高生になっても、放課後の居場所がない状態は変わらない。同協議会が昨年行った学童保育の対象年齢に関する全国調査では、773自治体(47%)が「小学3年生まで」と回答。763自治体(46%)は「6年生まで」だが、中高生は対象外だった。
障害児支援のあり方を議論した厚労省の検討会は先月22日にまとめた最終報告書で、障害のある子どものため、新たな放課後対策事業の創設を検討するよう提言した。しかし、財源確保など課題も多く、事業の具体的な方向性は定まっていない。
毎日新聞 2008年8月11日 東京朝刊
投稿: レインボーおやじ | 2008.08.30 11:55
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新教育の森:障害児放課後活動、自立支援法で岐路
放課後といえば、友達と遊んだり習い事に行ったりする子どもの姿がイメージされる。だが、障害のある子には、こうした当たり前の時間さえ確保が難しい。障害児の放課後を支える取り組みの現状は。【夫彰子】
◇進む法内事業移行…どうなる就学児の居場所
◇質の低下、利用料増懸念--都内50カ所
◆サポートあり安心感
「こんにちはー」。午後2時が近づくと、母親に連れられた子どもたちが次々と到着し、室内はたちまちにぎやかになる。
東京都江東区の住宅街にあるビルの一室で運営する「さくらんぼ子ども教室」。小学1~6年の子どもが、放課後から夕方までのひとときを過ごす。学童保育のイメージに近いが、大きく違うのは、入会している28人全員に知的障害や肢体不自由、自閉症などの障害があることだ。
小学6年の男児(12)は、5年生の春から通っている。注意欠陥・多動性障害(ADHD)で、小学1年から3年間は学童保育に通ったが、遊びのルールが十分理解できず、次第に周囲から孤立していったという。
母親(42)は「学童保育で周りの子どもが優しくしてくれたことは、本当にうれしかった。ただ、一人で寂しそうに遊んでいる時が多く、親としてつらかった」と振り返る。
さくらんぼでは、職員たちのサポートで他の子らと遊ぶすべを覚えた。集団生活に慣れていく様子に、母親は「息子に合う場所が見つかった」と実感している。
今春から通う小学1年男児(6)の母親(34)は「学童保育で障害のない子どもたちと過ごすことで成長する障害児もいると思う。でも、そうじゃない子もいると分かってほしい」と訴える。
男児は、環境の変化への対応や人間関係を築くことが困難な自閉症。混乱するとパニックを起こし、自分自身や他人を傷つけてしまう。息子がたたいてしまった人に平謝りした経験は一度や二度ではない。相手が納得しない時は、「本人は何か理由があってパニックになっている」と知りつつ、場を収めるために「ごめんね」と心でわびながら息子をしかりつける。母親は「障害への理解が不十分な環境は、子どもも親もつらい」と語る。
◆助成金ある都の場合
さくらんぼの前身の「まつぼっくり子ども教室」が設立されたのは83年だった。8年後に「まつぼっくり」は中高生対象となったため、小学生は新たにできた「さくらんぼ」に通うことになった。
開設の背景には、79年に障害児への教育が義務教育の中で明確に位置づけられたことがある。戦後30年、ようやく障害児が教育を受ける権利を保障されたが、多くの子は下校後、近所の子どもと遊ぶこともなく、自宅以外に居場所がない状態だった。
さくらんぼの山崎知子所長は「障害児に放課後の居場所を提供するだけでなく、障害について知識のある職員が一人一人の成長に合った療育支援をする場」と位置付ける。70~80年代に東京都が独自に活動費の助成を始めたことも追い風になり、さくらんぼのような拠点は現在、都内約50カ所に上る。
ところが、全国に先駆けて進められてきた都内の障害児放課後活動が今、従来通り続けられるかどうかの岐路に立っている。
06年10月に障害者自立支援法が全面施行されたのを境に、都は従来の独自事業から、障害児を昼間預かる児童デイサービスや日中一時支援など同法に基づく事業(法内事業)への移行を図るようになった。独自事業と異なり、法内事業の場合は活動費の2分の1を国が負担するため、都にとっては財政負担が小さくなるメリットがある。
◆独自施策は129自治体
実際、「障害のある子どもの放課後保障全国連絡会」が昨年10月、全国の1827市区町村を対象に実施した調査(回答率71%)では、障害児の放課後活動に独自施策があるのは129自治体にとどまり、児童デイサービス(802自治体)や日中一時支援(1039自治体)が受け皿になっている実情が浮かんだ。
だが、児童デイサービスは就学前児童が中心で、日中一時支援は文字通り、一時的な預け先だ。山崎さんは「現在の法内事業では、さくらんぼのように学齢期の障害児への継続的な療育を目的とした事業がない。移行すれば支援の質が低下してしまうのでは」と困惑する。
さらに、法内事業になると同法に基づき、保護者に原則1割の利用料負担が課せられる。さくらんぼの場合、現在は月3000円程度の会費で済んでいるが、「移行後は保護者の負担が2倍、3倍に増える」(山崎さん)。都は保護者らの要望を受け、既存の拠点に限って独自助成を続けているが、「当面の間」との条件付きだ。
◇一般学童保育に1万4000人 きめ細かな対応は難しく
障害児の放課後の居場所には、一般の学童保育もある。「障害のある子もない子も一緒に」という理念からだけではなく、ほとんどの自治体で障害児のための独自施策がない現実があるからだ。厚生労働省によると、全国の学童保育の4割に当たる6538カ所の学童保育に、計約1万4000人の障害児が在籍している。
しかし、全国学童保育連絡協議会の真田祐事務局次長は「今の学童保育は、障害のない子にとっても安心して過ごせる環境とは言い難い。障害児一人一人に合ったきめ細かな対応ができるか疑問」と指摘する。
児童デイサービスや日中一時支援が自立支援法に基づく事業なのに対し、学童保育は児童福祉法に基づく。他の児童施設と異なり、職員配置や施設面積の規定がない。離婚などに伴う一人親や共働き世帯の増加により、学童保育は過去10年間で、児童数が2・4倍の約79万人に増えた。しかし、施設数は1・8倍の1万7495カ所と伸びが小さく、真田さんは「最低基準がないままニーズに受け皿作りが追いつかない状態が続き、古く狭い室内に子どもが詰め込まれ、芋洗い状態の学童保育も珍しくない」と嘆く。
同協議会は、子どもの生活環境や安全を確保するために「学童保育1カ所当たりの規模を、最大でも児童数40人にすべきだ」と提言しているが、「1カ所に多数の子どもを集める方がコストが少なくて済むため、規模の適正化が進みにくい」(真田さん)。厚労省も、71人以上の学童保育には10年度から補助金を廃止する方針だが、2481カ所(全体の14%)では今も70人の上限を超えている。
また、学童保育1カ所平均の児童数は45人なのに対し職員数は3・7人と、職員1人で10人以上の子どもを見る計算だ。障害児がいれば、補助金の加算があり職員を追加できるとはいえ、金額は障害の程度や人数に関係なく一律年間142万円で、1人増員するのがやっとだ。
障害児の場合は中高生になっても、放課後の居場所がない状態は変わらない。同協議会が昨年行った学童保育の対象年齢に関する全国調査では、773自治体(47%)が「小学3年生まで」と回答。763自治体(46%)は「6年生まで」だが、中高生は対象外だった。
障害児支援のあり方を議論した厚労省の検討会は先月22日にまとめた最終報告書で、障害のある子どものため、新たな放課後対策事業の創設を検討するよう提言した。しかし、財源確保など課題も多く、事業の具体的な方向性は定まっていない。
毎日新聞 2008年8月11日 東京朝刊
投稿: レインボーおやじ | 2008.08.30 11:55